先日
NSXのリアフレーム交換という大作業を行いました。
車輌はNA2クーペで
オーナーさんは
10年ほど前 修復暦があるのを承知で購入し
走行フィールに違和感を感じつつも大事に乗ってきたんですが
一念発起して
「フレームを完全に治したい」という相談でした。
状況を確認すると
どうやら右側面に衝突されたような事故歴があるようで
その修理方法がかなりズサン。
これは
リアフレームコンプリート交換しないと治らないな・・
と言うレベルなんだけど
幸いなことに
メーカーには1個だけフレームの在庫がありました。
まず、T3ファクトリーでエンジン駆動系を降ろし
せっかく降ろしたんだからエンジンは整備の手を入れることにして
ボディは鈑金工場へ運ぶ。
エンジンを降ろすと
フレームの変形が目に見えて分かる。
驚いたことに
エアコンコンプレッサーのプーリーが強くフレームに当たった形跡があり
やはり過去の事故で
右リアタイヤの前あたりに衝突を食らったんじゃ無いかと思われる。
でも、修理を依頼した業者が治しきれなかったんでしょう
外装を順次外していくと
驚いたことに赤いフレーム部品が見えるので
過去の修理では
中古のボディから外したフレーム部品を移植したのかと思われるけど
フェンダーとかのパネル類ならともかく
これは普通やらない手ですねぇ・・
NSXのフレーム強度の要になるサイドシルが大きく変形したままだし
これは
リアフレームと右サイドシルの交換という
ウルトラCな大手術になりました。
NSXが生産開始されて間もない頃
大事故を起こした車輌の修理は
高根沢工場のファクトリーに運ばれて作業を行っていたので
当時
高根沢ファクトリーで大修理作業を行っていた方に写真を見せて
一応 修理手順を相談してみたところ
フレームの切断手順と溶接場所など
ほぼ予想通りの回答だったので
ボディを修正機「セレット」に載せてフロント基準で位置出ししてから
リアフレームをバッサリと切断
新品フレームを仮組みしてサイドシルを切除し
新品のサイドシルを組み込んで
全てのフレーム位置が基準値になったところで溶接作業。
いままでNSXのフロントフレーム交換は何台も行ったけど
リアフレームが無くなって
運転席から後ろが何も無くなった状態を見ていると
クルマってこんなにバラバラになって良いのかな・・と不安に思っちゃう。
でも、不思議なモノで
リアフレームを仮合わせするとすごく安心感が湧いてくる。
実際はまだ溶接されてないから事態は変わってないんだけど・・
新車生産時には作業効率のためスポット溶接が使われるけれど
修理作業ではアルミフレームのスポット溶接は無理だから
半自動のTIG溶接を使います。
これは、高根沢で修理していた頃も同様で
実はスポットよりもTIGの方が溶接強度は上で
修復のためフロントフレームを交換作業したNSXは
オリジナル状態よりも強度は高くなります。
溶接作業を終えて溶接部を平坦に削り込んでフレームを塗装。
外装を組み立てて
再びT3ファクトリーに移送してからエンジンを搭載。
文章にするとこんな感じだけど
いや、実はホントに大作業でした。
でも、これでフレーム寸法と強度は完全に元通りで
元気になってオーナーの元に帰っていきました。
10年以上前
いったいどこの業者でこんな修理作業を行ったのか
どういう経緯だったのか今となっては分からないけれど
経験も設備も不足の工場で
完治を目指す意識も無い作業者が修理したんでしょうね。
でも、幸いなことに現在のオーナーさんは
「完治させて一生乗る」という意識だから
ボディの完全復活という大作業を成し遂げることが出来ました。
外見は問題ないレベルに治ってしまっている車輌を
大金かけて大手術するというのは
我々業者の技術よりも
オーナーの意識がなにより重要です。
このNSXは
良いオーナーさんに恵まれたと言うことですね。
この重作業
とても15枚の写真では紹介できない大作業で
長編のWebページが作れそうな内容なんだけど
いつか
私の手が空く頃が出来たら
色々な鈑金修理作業なども紹介してみたいんですけどね。
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