T3TECは
チューニングショップ以外にも
ホンダディーラーさんやNSXを扱う中古車屋さんなど
様々な業者さんとやりとりがありまして
メーターやパワステなどの単体修理依頼は
毎週のように現品が届いて修理して発送・・を繰り返していますが
時には
車輌ごとの修理依頼というのも入庫してきたりします。
今回
練馬のヨコオオートさんからアイドリング不調の調査修理依頼があり
原因究明&修理。
ヨコオオートさんは
もともとNSXの取り扱いは多かったんだけど
数年前
かつてNSXの中古車販売で名を馳せたmacsの後を継いで
練馬のショールーム付き店舗でNSX販売を行っていて
私も付き合いは古く
NSXを売買したいお客さんがいるとヨコオさんを紹介しています。
今回調査依頼の初期型AT車
暖機後は全く普通に乗れちゃうんだけど
冷間時の始動後 ファーストアイドルが高すぎる のと
暖機後 エンジンの揺れが微妙に大きい
という症状。
この車輌は業者オークションで仕入れたらしく
ちょっとアイドリングがおかしいから
スロットル調整で治る判断し
自社で整備してみたんだけど改善せず
このままではお客さんに渡せない・・と
うちに整備作業を依頼してきた次第。
普通の中古車屋さんって
仕入れたクルマを
いかに手をかけずに売り抜けて利益を残すか?
というのが最優先で
難易度の高い整備なんかする業者は極めて少ないんだけど
かつてのmacsもヨコオオートも
割と律儀にクルマを扱ってくれるんですよね。
(まあ、NSXという高額中古車ならではのことかも知れないけど)
今回のAT車も
専門業者としてNSXを多く見ていなければ
こんなモノなのかな・・と、そのまま売っちゃうレベルの症状でした。
で、現車が届いて
ファーストアイドルをチェック。
なるほど、始動直後2500rpmくらいまで上がって下降途中にハンチングするし
暖機後 排気音とエンジンの振動がおかしい・・
チェックすると
点火時期が数度ずれていて
圧縮を測るとリアバンク3気筒が全て低い
排気ガス濃度 Co HC共に高い・・
もしや・・と 右ドアを開けると
タイミングベルトを交換したステッカーが貼ってある。
こりゃあ・・タイミングベルトのコマズレでしょう・・
おそらくは
エンジンを降ろさずにタイミングベルト交換して
ズレたまま組んじゃっているんでしょうね。
でも、交換後すでに数万キロ走っているから
以前のオーナーさん
ベルト交換後に不調を感じながらも乗っていたんでしょうねぇ・・
タイミングベルトがズレて組まれると
ピストンの上下に対して吸排気のバルブタイミングがズレるから
パワーダウンするし振動が出たりするけれど
普通に走れちゃうものなんです。
ピークパワーで数十馬力落ちるけど
いつも全開走行しているわけじゃあ無いし
特にAT車では分かりにくいかも知れません。
ヨコオオートの担当さんに
「エンジンを降ろしてベルトを掛け治さないと解決しませんよ」
と、伝えると
いやぁ・・参ったなぁ でも、それが必要ならお願いします!
とのこのとで
引き続きエンジンを降ろしての修理作業に移行。
いい加減な業者だったら
ここで作業を切り上げて
そのままお客に渡しちゃうか
再びオークションに流しちゃうんでしょうけどね。
修理作業にGOサインが出たのでエンジン降ろし作業を開始。
これがユーザーからの依頼なら
「エンジン降ろしメンテナンス」としての依頼で受けて
カムを外してロストモーションスプリングなども後期型に交換して
細部まで徹底的に手を入れるんだけど
今回は不調の修理だからそこまでの重整備は行わず
現状で
不具合が出ているところと
危険度が高い部分だけを重点的に整備する方向。
エンジンミッションのパワーユニットごとヤグラに載せてボディを上げて分離。
カムカバーとタイミングベルトカバーを外してみると
案の定
フロントバンクで1コマ リアバンクの排気側は2コマズレていた。
こりゃ
点火時期がずれてリアバンクの圧縮が低くなるはずだよな・・
エンジン搭載状態で交換されたタイミングベルトは
オイル汚れが多く
ベルトとウォーターポンプなどは新品交換。
冷間時のアイドル異常は
ファーストアイドルバルブの不調も原因しているので
交換しちゃっても良かったんだけど分解して調整。
(この、ファーストアイドルバルブの構造も面白く
いつか内部構造の紹介を書いてみたいと思います)
全てを適正値で組立治し
エンジンを搭載し始動。
ファーストアイドルも適正値で暖機後の妙な振動は無くなって
全てが正常。
このくらいの滑らかな回転が
我々にとって当たり前なんだけど
整備ミスで不具合を抱えたままのNSXは実に多いです。
走行距離を重ねて
不具合が起きる前にタイミングベルトを交換する作業を行ったのに
その作業が原因で不調が起きている。
これは
エンジン搭載状態での整備作業が
いかに困難でミスをしやすいか物語っています。
整備要領書には
エンジン搭載状態でシリンダーヘッドまで外せるようなことが書いてあるけど
実際にはとんでもない難易度で
そんな重作業は
エンジンを降ろしてしまった方が全然楽でミスもしにくいわけですが
整備書通りのやり方で頑張った結果
元よりもコンディションが悪くなってしまった車輌が多々あります。
10年くらい前
この問題が散見されるようになってきて
「タイミングベルト交換はエンジンを降ろさなければダメだ」と訴え始めて
ベルト交換と共にカムシャフトシールの交換とか
インテークマニホールドの分解整備などを同時に行う作業として
「エンジン降ろしメンテナンス」を提唱し
この方法が業界でも認められてきて
どうせエンジンを降ろすなら・・
可能な限りの消耗品交換や分解清掃などを盛り込んで
いま、T3TECで行っているエンジン降ろしメンテナンスは
エンジンルームの大リフレッシュになっているわけですが
この作業はエンジンルームの美観も大きく向上するし
非常に満足度が高い反面
費用もかかるし
作業の進行は遅く順番待ちに行列が出来てしまっているわけです。
今回は中古車屋さんからの依頼と言うことで
必要最小限な整備作業を行ってみたわけですが
それでも一般的な整備工場さんの作業よりは
余程確実で手が込んだことをしているわけで
これで十分安心感は買えると思います。
美観も大きく向上する大リフレッシュなエンジン降ろしメンテナンスと
今回のポイント整備。
手間も使用部品も大きく違うから
もちろん費用も大きく変わってきます。
いまのところ
この作業をメニュー化する予定は無いんだけど
怪しい業者で強引にタイミングベルトだけ交換して
コマズレで不調を抱えるNSXが増えるくらいなら
エンジン降ろしメンテナンスと並行してタイベル交換を受け入れるために
作業受け入れする方向も考えた方が良いんだろうか・・
と、悩むことになりました。
特に中古車屋さんからのタイミングベルト交換作業は
いままで受け入れていなかったんだけど
これも再検討した方が良いのか・・
でも、受け入れるにしても
この手の作業はどうしたって人の手で行う物だから
メカニック不足が深刻化しそうです。
T3TECも
あと2人ほどスタッフが欲しいんですけどねぇ・・
だれかメカニックとしてうちに来てくれる人はいないかな・・
何はともあれ
今回は予想通りで解決できて良かった。
ヨコオオートさんは
おそらく今回の車輌販売は赤字でしょうけど
NSXを売る中古車屋さんは信頼第一でしょうからね。
良い対応を行っておけば
良い結果は巡ってくるものだと思います。
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