NSX標準車とType-Rで大きく異なるのはファイナルギアとLSD。
標準仕様のファイナルは燃費のためか高速巡航時の回転数を押さえるためか
ハイギヤードで5速100キロ巡航時2500rpm未満
パワーバンドが広いため これはこれで扱いやすいんだけど、
サーキット走行時に3速で回るとパワー不足になるようなことがあり、
ストレートで吹けきって、でも4速に上げると損になる こんなことが多くなる。
また、LSDはミッドシップの性格に合わせたのか 効きは弱く、
構造上左右の回転差が大きくなってもイニシャルトルク以上の効きは発生しないため、
ノーマル状態ではヘアピン立ち上がり等で内輪のホイルスピンが多く、かなり損をする事がある。
Type-Rはこれらの点が改善されており、
ファイナルは加速仕様になっていて、LSDは基本的に同一構造だけどイニシャルトルクはかなり高くなっている
サーキットにおいては非常に効果的で ギヤの選択で悩むことが減って、アクセルを入れるポイントが早くできるようになった。
標準車にType-Rの部品はほとんど流用可能であり、
効果は大きいため この改造を行っているユーザーはかなり多いようだ。
なお、ファイナルを変更した状態で8000rpmまで回した場合 シャーシダイナモ上で最高速は約275キロ。
実際 ライトチューンエンジンにおいては最高速ダウンの心配はなく 加速は良くなり
5速100キロ巡航時のエンジン回転数は約2700rpmくらいになった。
加速、最高速、燃費 全てにおいてデメリットは無いようだ
LSDの参考データ
分解前 ノーマルLSDのイニシャルトルクは約8s-m
標準車の設定値は 6-14s-mで限度値が3s-m Type-Rは12-20s-mで限度値が6s-m
今回 ディスク新品を組み込んで、調整シムはノーマルで約17s-mだった。
ノーマル状態では ヘアピン立ち上がりで内輪ホイルスピンが多く、アクセルに待ちを必要としたが、
変更後はホイルスピンせずに ぐんぐん前へ出るようになった。 悪いことは感じられないが
構造的に 徐々に設定値は下がってくるため、
次回組み替えるときは もう少しイニシャルを上げてみようと思う。
以下に作業記録写真を載せるが
今回は中古で程度の良いミッションが手に入ったため これをOHせず必用部品のみ交換してる。
ハブクラッチ、シンクロ、ベアリング等の検査はしたが
基本的に交換したのはカウンターシャフト、ファイナルドリブンギア、オイルポンプギアで
ベアリング等を交換した場合 サービスマニュアル記載の方法で各クリアランス等の調整作業が必要となる。
また、各部品の呼びは通称もあるので HONDAの品名とは違うかも知れません。
今回中古で購入したミッション
各センサー類もしっかりしており、外見の傷はあるけれど程度はすごく良かった
各部品の摩耗状況から 推定走行距離は1万キロ前後ではないかと思われる。
黒く塗られているのはこちら面が左リアホイルの隙間から見えるためだろうか 標準で塗られている
NSXのミッションはシャーシ、エンジンと同様に
生産された時期 仕様が分かるようにミッションナンバーが付いている。
このナンバーから 平成3年初期型 標準仕様のMTだと言うことが分かる。
とりあえずミッションを作業台に乗せる
サービスマニュアルは作業中に汚れるのと、原本は厚いため
コピーして必要部分のみ本にしておくと便利。
ミッションに取り付けられているセンサー類、チェックボール等の部品を外し、
ミッションケースを外す。
そして、ユニット化されたシフトフォークASSYを外す。
このあと ケースからメイン&カウンターシャフト リバースギアを取り外すが
同時に持ち上げないと抜けない。
NSXのミッションはこれがちょっと大変 二人で行うと楽。
各シャフトを外したミッションケース
残るのは ファイナルドリブンギアとオイルポンプギア
オイルポンプギア拡大
NSXのミッションは ミッション内部にトロコイド式のオイルポンプを持っていて、
ファイナルドリブンギアから駆動されている。
このポンプでミッションオイルを汲み上げて 各ギア、ベアリング等を強制潤滑している。
この方法を採用しているミッションは少なく、通常はオイルの中でギアが回るバスタブ方式。
この強制潤滑方式だから 大パワーでも粘度の軽いオイルが使えるのかも知れない。
当然 走行しなければ駆動はされない。
これは オイルポンプギアの比較。
左がノーマル 右がType-R用
カウンターシャフト、ファイナルドリブンギア、オイルポンプギアが
すでに決められたピッチ間であるため
ファイナルとのピッチをノーマルと同じにするため
ギアのモジュール(歯の大きさ)と歯数を変えている。
オイルポンプギアとプレートを外してみると
トロコイドポンプが見える ここは当然ミッションの最下部になっていて
ストレーナから吸い上げられたミッションオイルは各シャフトへ圧送される。
分解洗浄した各部品
ケース側は今回なにもしないので、
ミッションオイルを良く洗浄しておく。
LSDはファイナルドリブンギアに組み込まれている。
HONDA純正SST工具でバイスに固定して
LSDを分解する。
これはファイナルドリブンギアの比較
左がノーマル 右がType-R
これも モジュールと歯数が違う。
LSDで ノーマルとType-Rの大きな違いは、この皿バネとプレート
左はノーマル 右がType-R
ノーマルの上にあるのは プレートをデフケースに固定しているストッパーリング
この、皿バネの枚数が一枚多いため ディスクの圧着力が高くなり、
結果的にイニシャルトルクが高くなる。
皿バネは同一品だけど、プレートの掘りの深さが違うため
これ以外の部品は互換性があり、 最終的にSSTでイニシャルトルクを測定して
基準値に入ればOK
デフケース、ファイナルドリブンギア、LSDのクラッチディスク等を組み立てる
ディスクは普通のLSDと違って ただの金属板ではなく、
鉄板に摩材が貼られたタイプで GT-Rのトランスファークラッチのような構造。
だから、イニシャルトルクが20キロもあってもバキバキいわずに動作がスムーズ。
カウンターシャフトを交換するために ギアを外す。
バイスにアルミ板と共に固定して
ロックナットを取り外す このナットは左ネジ。
サービスマニュアルによると 各ギアは圧入なんだけど
すんなりスプラインから抜ける。 これは他のミッションでも同じだった。
カウンターシャフト比較
上がノーマル 下がType-R
このアングルでは分かりづらいが Type-Rの方が歯数は少ない
Type-R用カウンターシャフトに各ギアを組み込んで組み立てる
メインシャフトは一度全てギアを分解して
ハブクラッチ、シンクロ、ベアリング等をチェックする。
今回のミッションは全て程度が良いので そのまま組み立てる。
組み立てた メインシャフト&カウンターシャフトASSY
メインシャフトのクラッチスプラインは オイルシール保護のため
テーピングしておく。
ミッションケースの各オイルシールは程度が良くても必ず交換。
オイルシールの傷は目視では見えないことが多い
つまらないオイル滲みを避けるために分解時交換。
ケースに各ギアを組み込んで 組み立てる。
この 最後の組み立てが実はやっかい
シャフトのベアリングが上手くケースに入ってくれるように 慎重に組み立てる。
上手く組めたら 各ボルトを規定トルクで締めてほぼ完成
チェックボール、各センサー類を取り付けて Type-R仕様ミッションの完成
ところで、
ファイナルが加速仕様になると 当然吹けきるのが早くなって、
一定走行時のエンジン回転数は上がります。
これはファイナル変更後100q/hで5速巡航中のエンジン回転数を見たものです。
ノーマルでは2500rpmくらいだったはずが 2750rpmくらいになります。
スピードは手前のデジタルメータの方が正確で この時点で100q/hです。