NSXのパワーステアリングは電動アシストタイプ。
経年老化に伴い
アシスト機構にガタが大きくなって
操舵に違和感を生じる事例が増えています。
しかし、このギアボックスは非分解ユニットであり、
整備のための消耗部品や構成部品もメーカーから供給されていないため
トラブルが起きた場合 Assy交換しかないのが現状で
トラブル発生の際には
高価なギアボックスの購入を迫られていました。
KSPではMT車にパワステを後付けする事も多く、
パワステが標準搭載されたAT車の作業依頼も多いため
この整備の確立も重要と考えて
早期からギアボックスの構造理解と修繕を模索していました。
現在では
独自の修理方法確立と消耗部品の流用などで
通常消耗レベルであればガタの改善が可能になっています。
また、ギアボックスのみを送っていただいての整備依頼が非常に増えたため
車載せずに動作検証できる治具を作ってこの作業に当たっています。
左図がNSXのパワステギアボックスの構造
モーターの回転をヘリカルギアでボールネジに伝達し
ボールネジナット(リサキュレーティングボール)で
直動に変換して
これをラックシャフトに連結する事で
パワーアシスト機構を構成している。
最もガタが発生するのは
ボールネジナットとラックシャフトの連結部です。
独自構造のギアボックスを的確に分解整備するため
上のような動作検証治具を作って整備しています。
これが
車輌から外したパワステギアボックスAssy
治具には
ギアボックスを立てた状態で取り付けて
ラックシャフト下側をショックアブソーバーを繋いで
直動に対しての負荷をかける。
ピニオンシャフトにステアリングを取り付けて回転すると
ショックアブソーバーをストロークさせる力が抵抗になり
これがハンドルの重さになる構造
この状態でコンピュータに通電すると
ギアボックスのトルクセンサーが正常なら
パワーアシスト動作が行われるので
操舵は軽くなるのが確認できて
センサーやモーターにエラーがあれば
オレンジのパワステ警告灯が点く様になっている。
制御側で問題がなければ
パワーアシスト状態で動作検証して
モーターやギア、ボールネジなどからの異音をチェックして
OHして症状が改善が見込める事を確認してから
分解整備を開始する事になります。
まずは先端ケースを取り外す事になるけれど、
このギアボックスではケース組み立ての位置決め機構が無いので
ボルトを緩めた時点でメーカーで適正に組まれた位置を見失うため
調整不能な条件では絶対ボルトを緩めてはいけない。
上の写真が
ボールネジナットの直動をラックシャフトに伝える
ジョイント部分。
パワーアシストで感じるガタツキは
ほとんどの場合このジョイント部分に発生している。
ラックをピニオンギアに押しつけている ラックガイドとスプリング
ラックガイドスクリューを取り外す。
トルクセンサーインターフェースユニットと一体になった
ピニオンギアユニットを取り外す。
ボールネジ先端とモーターシャフト先端に加工されたヘリカルギアが噛み合って
駆動を伝えている構造だけど、
この2軸の位置を動かしてバックラッシュ調整を行っている構造。
従って
組み立て時にはギアのバックラッシュ調整が重要になります。
外しにくいボルトはあるけれど
このまま治具上で分解していく。
主要部品一式
経年老化が激しい老化したグリスを除去して洗浄する。
ここで使われているグリスは一般のリチウム系MPと違っていて
透明感がある寒天の様なグリスが充填されている。
ただし、経年変化で真っ黒で
金属が溶け込んでいるためか激しい異臭を放っている。
同じグリスが入手できないため
KSPでは比較的質感が近いRPのグリスを使っています。
ガタが出ているブッシュは取り外し
産業用のブッシュに交換。
ブッシュの固定は
2軸の位置関係の動きを考慮して
ある程度の動きを加味してリテーナーで抑えて溶接
この部分には
色々なノウハウがあり、
逃げを上手く作らないと
操舵の際にカタカタ音が出たり 動作が重くなったりしました。
操舵の際にキュルキュル音が出たり
パワー系統のエラーが出る場合
ブラシと接触しているモーターのコミュテーターが焼けている場合が多く
接触の電気抵抗増大が原因。
ローターを旋盤で回転させながら紙ヤスリでコミュテーターを修正
表面状態が著しく悪ければ表面を切削して修正。
ほとんどの事例でブラシの消耗は軽微だけど 著しければ交換。
再利用する場合でも接触部を修正してやることで 異音は消えてくれる。
ちなみに、このモーターはかなりコンディション良好な事例。
再び治具上で組み立てていく。
非分解部分に関して
メーカーから締め付けトルクの指定はないけれど
素材と構造を考えて締め付けトルクを管理
ステアリング機構は重要保安部品だから慎重に組み立てていく。
また、電動パワーステアリングは水気を嫌うので
アルコール系パーツクリーナーなどを使う際
内部に水分が残らないように注意。
コンピュータを繋いで通電し
パワーアシスト状態でステアリング操作しながら
2軸のバックラッシュを調整する。
これを上手く行わないとギア鳴りやガタが残る事になる。
これも重要なノウハウで
新品製作時にはどの様な方法で組み立てていたのか考えて
調整用の治具を作って
パワーアシスト状態で調整する。
この方法なら
車載確認をせずに動作の最終チェックが可能になります。
整備が完了した
パワーステアリングギアボックス。
これで
パワステの動作フィーリングはほぼ新車状態に戻ります。
両端のタイロッド取り付け部にはゴムブーツが付きますが、
水を嫌う電動パワステにとってこのブーツは非常に重要。
ギアボックス整備の際にはブーツを新品交換を推奨します。