NSX カム交換


吸排気系 V・Pro制御 C32Bエンジン換装と進歩してきたパワーチューンですが
NAらしいモアパワーを求めてハイカムを組んでみました。

NSXの素材カムは業界には存在しないため
純正カムを加工して
ハイリフト&作用角拡大のハイカムを製作しました。

一般的に加工ハイカムは、純正を加工する以上
大幅な作用角変更が出来ないのですが、
元々VTECカムの高速側は市販エンジンとしてはかなりの高出力型なので
カムのベース円を小さくすることで
大幅な作用角変更が可能。

ノーマルのカムデータがメーカーから公開されていないため
ノーマル比でどの程度という表現が出来ないのですが
今回加工した高速側カムは
作用角約300度 リフトはバルブで1ミリ程度アップと
チューニング業界で使われる社外カムと遜色ない仕様になります。

このチューニングメニューを確立するため、
まずは
私のNSXに組み込んで検証を行ってみました。




これが
今回用意した加工ハイカム。
NSXはV6DOHCなのでカムは4本
さらに、VTECのため2バルブに対してカム山は3個有るので
加工するにしても山数は通常のエンジンよりも多いことになる。

ちなみに
低速側のカムは一見同じに見えても作用角が異なります
これは、シリンダーへの混合ガス流入に変化を付けてスワールを発生させ
燃焼状態を向上させるためだそうです。



エンジン搭載状態では作業はほぼ不可能
まずはエンジンを降ろす。


エンジン上部も接続を外す



チェーンブロックで吊りながらメンバーごとエンジンを降ろす




降りたNSXのパワーユニットAssy
管理も良いのでオイル滲みはほとんど無いけど
異物混入をさけるためヘッドカバーを開ける前に付近を洗浄しておく。




ヘッドカバーを開けてタイミングベルトなど周辺部品を分解。



このエンジンは走行2万キロほどだけど
クランクアングルセンサーはすでに溶け始めていました。
センサーに充填れている樹脂が溶けるんですが、
これはこの部品の欠陥のようです。
距離を重ねたNSXではほぼ確実に起こっている症状ですが、
実害として何があるわけでもないので 今回この程度なので無視して使います。



左が加工カムで右がノーマルカム
リフトが大きくなるため
カム山は尖ってきます
低速カム、高速カムでベース円を同じにしないと切り替えが行えないため
もちろん低速側のカムも加工。
今回は低速カムの作用角&リフトも大きく変更している。
カムの表面が黒いのは
耐摩耗性、耐カジリ性向上のため
タフトライド処理を施しているため。



カムシャフト交換そのものはそれほど面倒ではない。
ボルトを外してホルダーを外せばカムは外れる。
VTECなので
ロッカーアームは3個有り、高速時には連結される。



バルブクリアランス調整
一連の作業の中で
もっとも慎重に時間をかける作業。
作用角が広がっているため、ベース円がロッカーアームに巡っていることを確認して
カムとロッカーアームの隙間をシクネスゲージで計測しながら
24カ所の調整ネジを回してセッティングする。
これは専用工具を使用して行い、
調整後 ロックナットをトルクレンチで締め付けて
その後もう一度クリアランスを確認して1カ所が終了する。
この作業で手を抜くとクリアランスが不揃いになるため
メカノイズやエンジン振動の原因になる。

そして
この繊細な作業を慎重に行うにはエンジン搭載状態では不可能と考えます



前後バンクともカム交換&バルブクリアランス調整を行った後
タイミングベルトを張ってカバー類を取り付ける。



そして車輌にエンジンを搭載する。



動作確認後
一般走行を想定した街乗り実走セッティングを行って、
シャーシダイナモで全開領域のエンジンセッティングを行う。
この車輌はエンジン制御にV・Proを使用しているので
ノートPCを接続してリアルタイムにデータ変更してセッティングを詰めていく。



すでに吸排気系チューンは施してあったC32Bですが
カム交換だけで338PSをマーク!。



カム交換前のグラフと重ねてみると
4000rpm近辺から上で著しいパワーアップを得ています。
VTECの切り替えはノーマルCPで行っているため
ノーマルのカムと同様の5800rpm
このグラフでは
6000rpmを少し超えたあたりで谷が見られるけれど
実際運転している限りではトルクの段差は感じられません。
低速側カムのパワーアップ&性格変更が大きいため
あと500rpmくらい切り替え回転数を上げた方が良いのかもしれない。
これはVTECカム切り替えをV・Proに制御すれば自在に設定は可能。
ノーマルカムで切り替えポイント変更は無意味だけど
カムが変わったならやってみたいですね。

燃料は
低速側カム領域で約5%
高速カム領域で約7%多く入るようになりました。
これは
C30AからC32Bに換装した際の増量に匹敵します。

逆に
2000rpm未満の低回転領域では若干のパワーダウンが計測されるのですが
その回転領域で全開走行するという状況はほぼ有り得ないため
体感でのパワーダウンはほとんど感じません。

実際このエンジンでサーキット全開走行をしてみましたが、
とにかくパワフルに感じます。
2速でヘアピンを立ち上がって全開した瞬間!
ノーマルとはまったく異なる強烈な加速Gが感じられる。
そしてストレートを4速全開加速する際
今までのような高回転の頭打ち感を感じることなく伸びていきます。
とにかくNAらしいピックアップの良さに磨きがかかって
乗っていて実に楽しいクルマになりました。


ただし、
私のNSXに組んだ加工ハイカムは
低速側カムのプロフィール変更が大きいので
アイドリングでのサージタンク負圧が著しく変わるために
ノーマルCPでは燃調が大幅にずれるためアイドリングが出来ません。
点火燃調制御はF-Con/V・Proが必須になります。

V・Proを使えば通常走行には問題にならないレベルに安定させることが出来ますが
コスト面での出費が大きくなるうえ
パワーアップと引き替えに巡航燃費なども落ちることは確実なので
低速側カムをノーマル並みにおとなしくしたハイカムをもう一セット設定することにします。
これはノーマルCP書き換えで対応出来るようにする予定です

エンジンOHなどの機会に選択できるよう
KSPでは2種類のハイカムを設定することにしました。
出来上がり次第またテストしたいと思います。


−ハイカム組み込み後のアイドリング安定性に関して−
現在
私のNSXには超軽量フライホイルのOSツインが組んであるため
空吹かしなどの回転上昇下降は非常に早くなっており、
そのため
カム交換後はアイドリングトルクが若干痩せるせいもあって不安定が出ます。
エンストするようなことはありませんが
若干ラフなアイドリングになります。
だけど
こういった多少不安定な刻み方をしているパルス音の大きいアイドリングは
チューニングエンジンならではであり
格好良く感じるモノです。

以下にカム交換後のアイドリング安定性と、
OSクラッチ組み込みによるレスポンスが分かるよう動画をアップしておきます
試しにご自分のNSXでも空吹かしして比較してみてください
アイドリングから無負荷空吹かし2発で6000rpm近辺まで跳ね上がり、
停滞することなく即回転が落ちるのは
OSクラッチの超軽量フライホイルによる効果です。
逆に、
アイドリング付近で落ち着くのに軽いハンチングを伴うのは
フライホイルが軽い故のデメリットになります ただしエンストはしません。
もちろん カム交換してないエンジンであれば
このクラッチを組んでもこのハンチングは発生しません。

アイドリング状態の動画を参照できます。


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